02.05
なぜ優秀な経営者ほど、海外市場で判断を誤るのか|成功体験が「武器」から「足かせ」に変わる瞬間
はじめに
「能力が高いからこそ起きる失敗」がある
海外市場への進出や事業拡張において、
判断を誤り、結果として撤退や縮小に追い込まれる企業は少なくない。
ここで誤解してはならないのは、
それが無能さや準備不足の結果とは限らないという点だ。
むしろ現場では、
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日本国内で確かな成功体験を持ち
-
意思決定が速く
-
周囲から「優秀な経営者」と評価されてきた人ほど
海外市場で判断を誤り、
結果として「なぜこうなったのか分からない」状態に陥るケースを目にする。
本稿では、
海外市場そのものを分析するのではなく、
経営者の意思決定がどのようにズレていくのか、
その構造に焦点を当てたい。
優秀な経営者が陥りやすい「判断ミスの型」
以下で整理するのは、
特定の国や業界に限った話ではない。
「日本で成功してきた判断様式」が、
環境の異なる市場に持ち込まれたときに起きやすいズレ
である。
1|成功体験の「再現性」を前提にしてしまう
日本市場で成果を出してきた経営者ほど、
自らの成功を振り返る際に、こう考えやすい。
「条件は違っても、本質は同じはずだ」
この思考自体は、決して間違いではない。
抽象化し、本質を掴もうとする姿勢は、
経営者として重要な能力の一つである。
しかし問題は、
その成功が、どの条件に依存していたのかを分解しないまま、
海外市場に持ち込んでしまうことにある。
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市場構造
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人材の質と流動性
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意思決定のスピード
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失敗に対する許容度
これらが違えば、
同じ「正しい判断」でも、
全く異なる結果を生む。
2|「理解したつもり」になるのが早すぎる
優秀な経営者ほど、
情報整理や概念化のスピードが速い。
そのため、海外市場についても、
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現地レポート
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専門家の説明
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数回の現地訪問
を経て、短期間で
「なるほど、そういう市場だ」
という理解状態に達しやすい。
しかし、海外市場の本質は、
説明されない部分にこそ存在する。
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なぜその判断が好まれるのか
-
なぜその言い方が避けられるのか
-
なぜ誰も反対しないのか
これらは、
「説明される知識」ではなく、
日常の中で体得される前提条件であることが多い。
整理できたことと、理解できたことは、同義ではない。
3|ロジカルに「正しい判断」が、現場を動かさない
日本で評価されてきた経営者ほど、
-
数値
-
ロジック
-
整合性
を重視する判断に慣れている。
海外市場でも、
「合理的に見て正しい」判断を下すことはできる。
それでも、現場が動かない。
誰も反対しないのに、前に進まない。
このとき問題なのは、
判断の正しさではなく、
その判断が、現地の意思決定プロセスにどう位置づけられているか
である。
4|「任せているつもり」で、判断を奪っている
海外拠点について、
経営者がよく口にする言葉がある。
「現地に任せている」
しかし実態を見ると、
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最終判断は日本
-
評価基準も日本
-
失敗したときの責任も日本
という構造になっているケースは少なくない。
この状態では、
現地側は次第に
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判断を避け
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上を見て動き
-
無難な選択しかしなくなる
結果として、
スピードも柔軟性も失われる。
5|撤退・縮小の判断が、最も遅れる
優秀な経営者ほど、
-
投資判断
-
継続判断
には強い一方で、
撤退や縮小の判断が最も遅れる傾向がある。
ここで重要なのは、
撤退が失敗ではない、という認識だ。
問題は、
戦略判断が感情判断にすり替わっていないか
である。
では、どう考え直せばいいのか
本稿の目的は、
「正しい海外進出の方法」を示すことではない。
むしろ、
海外市場で判断を下す前に、
経営者自身が立ち止まるための問いを提示することにある。
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その判断は、日本での成功体験に依存していないか
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理解したのは、市場か、それとも説明か
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正しさと、動きやすさを混同していないか
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任せているのは、実行か、判断か
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続けているのは、戦略か、感情か
KEYSTONE STRATEGY PARTNERとしての見解
海外市場で起きる判断のズレは、
能力不足の結果として語られるべきものではない。
むしろ、
日本で優秀だったからこそ形成された判断様式が、
環境の異なる市場で、別の意味を持ってしまう
その過程をどう自覚できるかが重要である。
海外市場において問われているのは、
「何を知っているか」よりも、
「自分はどの前提で判断しているのかを把握できているか」
という点ではないだろうか。
KEYSTONE STRATEGY PARTNERは、
海外進出の成功法則を提示する立場ではなく、
意思決定そのものを点検するための視点を
提供する存在でありたいと考えている。
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