2026
02.18

中小企業に「戦略」は本当に必要なのか

意思決定, 戦略

中小企業のための意思決定設計 第2回

※本稿はシリーズ第2回です。
第1回「なぜ中小企業は、忙しいのに前に進まないのか」はこちら

戦略は“大企業のもの”という誤解

「うちは大企業じゃない。戦略なんて大げさなものは必要ない」

中小企業の経営者から、この言葉を何度も聞いてきた。

確かに、分厚い中期経営計画書は必要ないかもしれない。
だが、ここで問い直したい。

戦略とは何か。

戦略とは計画ではない。
戦略とは「選択の基準」である。

────────────────────────────────

中小企業白書が示す現実

中小企業庁『2024年版 中小企業白書』によれば、
2023年の中小企業の経営方針は以下のように分類されている。

・新たな需要を獲得するための行動 47.1%
・付加価値を高めるための行動 41.3%
・損失回避のため静観(投資等は行わない) 11.6%

図1を参照。

図1:中小企業の経営方針(2023年)
出典:中小企業庁「2024年版 中小企業白書・小規模企業白書 概要」より筆者作成

図1:中小企業の経営方針(2023年) 47.1% 41.3% 11.6% 新たな需要を獲得するための行動 付加価値を高めるための行動 損失回避のため静観(投資等は行わない)

さらに同白書では、経営方針別の経常利益の変化率(中央値)が示されている。

・新たな需要獲得型 40.6%
・付加価値向上型 31.5%
・損失回避型 18.8%

図2を参照。

図2:経常利益の変化率(中央値、経営方針別)
出典:中小企業庁「2024年版 中小企業白書・小規模企業白書 概要」より筆者作成

図2:経常利益の変化率(中央値、経営方針別) 0% 10% 20% 30% 40% 50% 40.6% 31.5% 18.8% 新たな需要獲得 付加価値向上 損失回避・静観

労働生産性についても同様の傾向が示されている。

・新需要型 1.3%
・付加価値型 0.4%
・損失回避型 -2.2%

図3を参照。

図3:労働生産性の変化率(中央値、経営方針別)
出典:中小企業庁「2024年版 中小企業白書・小規模企業白書 概要」より筆者作成

図3:労働生産性の変化率(中央値、経営方針別) -3% -2% -1% 0% 1% 2% 1.3% 0.4% -2.2% 新たな需要獲得 付加価値向上 損失回避・静観

重要なのは、
「行動の選択」によって結果が明確に分かれている点である。

選択が結果を分ける。

それが戦略である。

────────────────────────────────

事例A:売上は伸びたが、利益が残らなかった企業

年商8億規模の製造業。

社長は営業力が高く、案件を次々に受注した。
「仕事を断るな」が社内の合言葉だった。

売上は伸びた。
だが利益率は年々低下した。

原因は単純である。

やらない仕事を決めていなかった。

その後、

・粗利率◯%未満は受注しない
・カスタム案件は全体の◯%まで
・主要顧客は上位◯社に集中

という「やらない基準」を明文化。

結果、売上は一時的に減少したが、
2年後、利益率は回復し、社員の離職率も低下した。

戦略は拡張ではなく、制限である。

────────────────────────────────

Porterの戦略定義

Michael Porterは『Competitive Strategy』(1980)で述べている。

「戦略とは、競争における独自のポジションを選択することである」

つまり、

戦略とは差別化であり、
差別化とは“選択”である。

選択とは、やらないことを決めることである。

────────────────────────────────

事例B:拡張し続けたサービス業の3年後

年商12億規模のサービス企業。

新サービスを毎年追加。
顧客数は増加。
売上は維持。

しかし3年後。

オペレーションは複雑化。
教育コスト増加。
中堅社員が疲弊。

撤退基準がなかった。

「売上がある限り続ける」という暗黙の前提があった。

結果、利益率は低下し、
縮小判断が遅れ、固定費が残った。

戦略がないとは、
未来の基準がないということである。

────────────────────────────────

中小企業に必要な最小戦略

中小企業に必要なのは、分厚い戦略書ではない。

必要なのは、3行である。

1)誰に売らないか
2)何をやらないか
3)利益を守る基準は何か

この3つが明文化されていない企業では、
判断はその場の合理性に流される。

戦略とは未来のための制限である。

────────────────────────────────

結論

中小企業に戦略は必要か。

大企業型の計画は不要。
だが、意思決定基準としての戦略は不可欠。

白書が示しているのは、
努力の差ではない。

選択の差である。

3年後に方向を持つ企業と、忙しいまま停滞する企業。

その違いは、戦略という名の「判断基準」にある。

────────────────────────────────

次回予告
経営者がプレイヤーをやめられない構造

────────────────────────────────

\ 最新情報をチェック /

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

コメントするためには、 ログイン してください。